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2022年9月号(2)
税制・相続・贈与
CFP®認定者 相澤 和久

知っておきたい自筆証書遺言保管制度

 終活の一環として雑誌・メディアで取り上げられることが増えたことから、遺言について興味を持たれた方も多いと思います。遺言と聞くと「厳格」「手続きが複雑」「費用が高い」など、気軽に作成できるものではなく、手間がかかる印象があります。そこで今回は作成する負担が少なく、メリットが大きい自筆証書遺言保管制度について解説します。

自筆証書遺言と公正証書遺言

 遺言を作成しようと思った場合、一般的には自筆証書遺言と公正証書遺言の2つを比較することになります。自筆証書遺言は特別な手続きが不要なため作成自体は簡単にできますが、遺言内容が法的に正しいか、遺言を紛失することなく保管し続けられるか、相続人が遺言を発見できるか、など遺言が実現されるかどうか不確実な面があります。一方、公正証書遺言は公証役場で専門家の助言を受けながら作成できるため、法的に正しい遺言を作成することができます。また、公正証書遺言は公証役場に保管されるため、遺言が実現される可能性は高いようです。しかし、作成のためには公証役場と打ち合わせを行うこと、手数料がかかることなどのため気軽に利用できるとは言い難いようです。
 手間や費用を考えると公正証書遺言を作成するほどではないと思う方、自筆証書遺言だと誰にも読まれず無駄になってしまうかもしれないと考えている方、そんな方におすすめしたいのが自筆証書遺言保管制度です。

自筆証書遺言保管制度の特徴

 自筆証書遺言は、2020年7月10日より法務局で保管してもらうことが可能になりました。本制度を利用すると、①遺言の外形的なチェックが受けられる、②データ保管してくれるため遺族は全国どこの法務局からも閲覧できる、③家庭裁判所の検認(遺言書の状態や内容を確認し保存する手続き)が不要になる、④相続人全員に遺言を保管していることを通知してくれる、という特徴があります。利用する遺言者だけではなく、相続人にとってもメリットがある制度になっています。また、④は公正証書遺言にはない本制度だけの特徴になっています。

自筆証書遺言保管制度の通知

 通知には、「関係遺言書保管通知」と「死亡時通知」の2種類があります。
(1)関係遺言書保管通知
 関係相続人等が法務局に保管されている遺言書の閲覧等をした際、その他の関係相続人全員に遺言書が保管されていることが通知されます。

(2)死亡時通知
 遺言者が死亡した際、遺言者が希望する場合に限り、あらかじめ指定した方1名に対して遺言書が保管されていることが通知されます。

 本制度の目的の1つは相続人に遺言書の存在を知ってもらうことです。本制度を通じて相続人に遺言書が保管されていることが伝われば、遺言の実現可能性が高まります。本制度を利用することで自筆証書遺言のデメリットの大部分が解消できるため、費用をあまりかけずに遺言書を作成したい方にはピッタリの制度と言えます。

まとめ

 本制度を利用するためには遺言者本人が法務局に出向き、遺言書1通につき3,900円の手数料を支払う必要があります。自筆証書遺言を自宅で保管することに比べれば手間や費用がかかりますが、本制度を利用することで得られるメリットは大きいです。
 本制度の利用にあたっては、法務局が自筆証書遺言の内容について審査するわけではありませんので、遺言内容に不安がある方や複雑な内容の遺言を作成したい方は、相続に詳しいFPや弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。

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